ミャンマーにはIT系の大学が2017年現在、全国で27あり、年間約6000人の卒業生を輩出しています。日本企業から見ると、ミャンマーの人件費の安さは魅力ですが、心配なのはそのレベル。
細かく調査したわけではありませんが、JICAの調査資料などを基に、そのレベルを検証してみます。
上記の通り、ミャンマーには27のIT系大学はありますが、以下の3校を除き、実習環境が整備されておらず、シラバスも日本のIT系大学に比べ、レベルが低いものと言われるため、調査対象となっていません。ミャンマーでIT系のトレーニングセンターにいる私にも、それらの名前を聞くこともないため、実際に期待できるレベルではないと思われます。
このため、ある程度のレベルを期待できる3校に絞った調査が行われています。
UCSY:University Computer Studies Yangon
UCSY:University Computer Studies Mandare
UIT : University of Information Technology
UITは5年前に設立された、ミャンマー最高レベルのIT系大学。ミャンマー政府が最も力を入れているし、高校卒業時の共通試験でトップレベルの学生しか入れない超難関校です。
UCSYとUCSM はUITが設立される前にミャンマーでトップだったIT系大学。UITができてからは、優秀な学生がUITに行ってしまうため、特に同じヤンゴン(しかも超郊外)にあるUCSYのレベル低下は否めないようです。
実際のレベルは、測る基準があまりないのですが、日本の経産省のIPA情報処理試験のアセアン版のITPECの合格率でみると、ITパスポート(オフィス業務でITを使う人のレベル基準)で、UITの3年生200名が受験し190名以上が合格、合格率が98%と驚異的な数値を打ち出したそうです。ちなみに日本の合格率は40%台です。単純に日本のIT系大学の学生はパスポートレベルを受けていない可能性はなくはありませんが、それにしても大したものです。また、その上の基本情報処理技術者試験は2016年秋の合格率は31%で同時期の日本の合格率は23%と比較すると、UITのレベルの高さがうかがえます。
一方UCSYやUCSMは情報処理試験が認知されておらず、各々のシラバスの基本情報技術者育成に必要なシラバスとを比較した結果では、その網羅率はUCSYが45%、UCSMが75%と、経産省のIPAが必要としているレベルにおよばないことが分かりました。
ただ、資格がすべてではないため、参考情報としてみていただきたいと思いつつも、ミャンマーのIT教育には以下の問題点があるため、資格の勉強でも不十分であれば、技術者としての期待値は下がってしまうのではないかと思います。とはいえ、うちICTTIに入学してくる学生はUCSY、UCSMの学生が多く、実習を見ていても日本の学生のレベルと遜色なかったり、おたくな子は売れそうな自作アプリを自慢げに見せてくるのを見ると、結構レベルが高いので資格だけでの判断には無理があるかも知れません。
ミャンマーの大学でのIT教育の問題点
ミャンマーのIT教育の問題点は、その教育内容が基本座学中心と言うことにあります。簡単に言うとプログラミングのテストはテキストにあるサンプルコーディングをどれだけ覚えて、紙に書けるかと言うようなものだそうです。これはPCがない、そもそもインフラも未だ不十分という根本的な問題と、教育の考え方が思考ではなく記憶にあることが原因だと言われています。
ICTTI(ICT Training Institute)の設立
上記問題点を解消すべく、ミャンマー教育省(当時 科学技術省)とJICAが協力し、座学中心の教育を受けてきた大学の卒業生がソフトウェアとネットワークの実践訓練(実習)を受けられる、トレーニングセンターを2011年に開設しました。私がシニアボランティアで所属している学校です。
ここでは、ソフトウェアとネットワークの各コースがあり、各々6か月通して実習し、卒業前の1か月間で、ソフトウェアコースは想定した企業のWebシステムやアプリケーション、ネットワークコースはネットワークデザインを実際に行い、プレゼンすると言う、自ら設計し開発、発表までできる人材が育っています。
インターンシップのカリキュラム化とマスターコースの設立
問題解決はICTTIだけではなく、各大学でもその対策が始まっています。まずはインターンシップです。1期4か月間でミャンマー国内外の企業で働かせてもらい、実践力を身に付ける制度です。希望者ではなく、全学生が対象になり、UITやUCSYからは日本の企業にも受け入れてもらっています。
また、マスターコースも開設され、実践技術者と研究者を育成する制度も始まりました。
いろいろ書きましたが、総合力としてはミャンマーは日本で期待されているほどのレベルには達していないことは否めませんが、優秀な人材は確実に育っており、マスターコースも設立されましたし、企業実習ができるインターンシップ生も企業から引く手あまたなことを考えますと、数年後は優秀な卒業生が倍増している気がしています。